カーナビ

新製品のカーナビロボットは画期的な商品であった。そしてあまりに画期的なので、運 転免許なんていらないくらい出った。そのカーナビロボットは人間ほどでかいので、助 手席に座らせなけばいけない。ただし優秀なので許されている。今では誰もがロボット を隣の助手席に乗せて、指示に従って運転している。

彼もカーナビを購入した一人。車を持っていたけれど、運転免許は持っていない。なぜ ならカーナビさえあれば、目をつぶっていてもいいんだから免許なんていらない時代。 「はい、そこ右に曲がって~、ブレーキかけてー」 「歩行者が右から来るから減速」 カーナビロボにしたがって操作できればもう、なにもいらない。日本では毎年数万件の 交通事故が起きるが、もう滅多に起きない。ブレーキとアクセルを間違えずに踏めれば 、あとは助手席のロボの指示を聞いていればいい。事故が起きてもドライバーの責任は 問われず、となりに座っているロボットが裁判にかけられる。

彼もいつのものように車で出勤する。前日深酒したので、頭がガンガン鳴って痛い。今 日はもう休みにしてしまおうかと思ったが、そうもいかないのだ。 まあ、ナビに従って操作していれば問題ないだろう。エンジンをかけて車の時計をみる と、8時30分。これは遅刻しそうだ。会社まで30分はいつもはかかる。飛ばしていけば 間に合うはずだ。といっても飛ばすのは、おれというよりナビのロボ君か。

「20分で会社に行きたいんだけど、間に合うかな」 「お任せください。超特急で行きましょう。僕は運転できませんから、頑張ってくださ いね」 「おう、任せなさい」 彼はそう言い、アルコールの抜けきらないままエンジンをエンジンをかけて、駐車場か ら出た。 直後、車にガシャンと音と衝撃があり、彼はあやうくハンドルへ頭をぶつける。隣に座 らせているロボはシートベルトの固定が不十分で頭をぶつけたようだ。電柱に衝突した けれど、車はまだ動く。 「うわっ、大丈夫か」心配して声をかけるが、ロボはそれには答えず 「時間はまだあります、あきらめずに行きましょう」 「警察に連絡しないと……」

「あ、これは普通に間に合わないな。ラリーモードで行きましょう」ナビはそうつぶや くと指示を出し始めた。 「アールゴショートカラ、グレエルゴショート……」 なんだかよく分からないが彼は、運転を続ける。隣でまともな運転の指示を出されずに 自動車を走らせるのは初めてのことだった。 「次はナロー!」 「え、なんだって?」 「これはラリーのペースノートです」

ラリーといえば、普通の自動車で公道を走るレース。ドライバーのとなりに座っている ナビゲーターが、ドライバーに指示をだして、先のカーブなど道路の情報を教えてくれ る。 このロボットは壊れてしまった。頭の中に入っているコンピューターがいかれてしまい 、本気モードのナビゲーションを始めている。 「R5ショートでしたら、Rは右に曲がって、5は5番目にきついコーナーです。ショー トは短いコーナーという意味で……」 ペースノートの指示をひととおり教えてもらった彼は、時速100キロで公道を突っ走り 会社へ向かった。大急ぎで運転しないと遅刻してしまうから。ドライバーとナビゲータ ーがお互いを信じあってこそできる芸当である。


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