チンパンジー: さしま

吉上は病院の待合室で朦朧としながら置いてある漫画を読んでいた。

今日で3日寝ていない。 朝の4時に眠くなって、これはいけるとおもったのだが結局6時には起きてしまった。

鏡の前にたつと目の下にどす黒いくまをつくった男が向かいに立っている、 浪花儲かりまっか大学に務める吉上は不眠症なのだ。

4月に大阪の街に転勤してから全くと言っていいほど眠れていない。20代のころは寝るのがひたすら惜しいと思っていたが、30代にもなるとあの頃が懐かしい。睡眠がもたらす「あの」心地よさをここ3か月は感じたことがないのだ。

「吉上さんこちらへどうぞー」 案内された先は精神科。俺は心に問題があるわけではないが、睡眠薬が必要だ。

診察室へ入ると医者が座っている。いやこれは白衣を着たチンパンジーではないか。 「なんで猿がいるんですか!」 「あ落ち着いてください大丈夫ですから」 しかも話す!!この病院には初めてきたけどチンパンジーが診察をするのか。

「最近眠れないんですって?」 「はあ、それが全然。。。」チンパンジーの質問に応えていく 「なにか心当たりはあるの?」 「いやーとくには」 「運動は週に何回?」 「全くしてないですね」 「それはいかんなー。」

カルテに何か幼児の落書きみたいなものを書き込みながらチンパンジーは言う。「岸」、と名札に書いてある。このチンパンジーは岸君か、いや岸先生?

「そうだ。銭湯連れてってくれない?入浴すると眠れるよ」 「銭湯?」 「そうそう。極楽湯が近所にあるんだけど、俺一人だといけないんだよね。チンパンジーだから」 「えーでも、」 「これも診察だから!じゃあ駐車場で待ってるから。」

極楽湯は炭酸風呂があることで近所で有名なのだが、実際にいったことはない。 炭酸風呂だけでなく、もちろん露天風呂もあるし、薬草風呂なんでもある。 とにかくでかい銭湯なのだ。


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