三題噺_羽生

お姫様

ある国にはお姫様がおりました。お姫様はある日、眠りにつくと、そのままずっと寝ています。眠り始めてから3日ほどたちますが、いっこうに目を覚ましません。お姫様は一日3回必ず食事を食べて、午後にはおやつも食べていました。食事や水をとらない日は今までなかったので、王様もお妃様も心配しておりましたが、ただすやすやと眠っているだけです。

困っているところへ夢見術師が現れました。近衛兵隊長が夢見術師を連れてきたのです。王様が夢見術師とは何かといいます。 「夢見術師は他人の夢の中に入ることができます。ですから、お姫様の夢の中へ入って、夢から覚めさせることができるでしょう」 「他人の夢の中になんて入ることができるのか」 「それが私の仕事なのです」 もう夢見術師に頼るしかありません。

あらためて眠っている姫のもとへ、みんなでいくと姫は悪夢をみているようで、苦しそうにしています。もう三日も飲まず食わずで寝ているのだから、しかたありません。 「これは大変だ。悪夢を見ている。夢の中に入ってら、私は悪夢に殺されてしまいます」 「でも悪夢の中で殺されても、目が覚めるだけだろう?」 「それはそうですが、それでは姫をたすけることができません。だれか護衛をつれていきたいのですが」 それではわたしが夢見術師殿についていきましょうと、近衛兵隊長が言います。 そうして夢見術師と近衛兵隊長がお姫さまの夢の中へ入っていくことにしたのです。 家来たちが見守る中、夢見術師と近衛兵隊長はお姫様の夢の中へ入っていったのでした。

二人の男が山の中を駆けていました。鹿狩りをしているようです。そろそろ休憩しようといって、腰を下ろしました。さて弁当を食べるかといって、袋をあけます。 中に入っているものを見て息をのみました。これは指だ。男は口に入れた食べ物を吐き出しました。しまった私たちは夢の中にいるんだと、夢見術師と隊長は思い出しました。うっかりしていると夢の中にいることを忘れてしまいます。ここは現実の世界ではなく、悪夢の世界でした。袋の中に詰められていたの指も、悪夢の生み出したものです。しまった姫を探さなければいけないんだったと二人は思い出しました。ふとそこにお姫様が立っていました。

抜け殻

お姫様は物悲しそうにしています。 「お姫様お城へ帰りましょう。ここは悪夢の世界だし、そろそろ起きる時間です」 夢見術師は言います。 「いえ、もうここは夢の世界ではありません。ここが現実の世界なのです。私はここに残ります」 「それは一体どういうことなのですか」近衛兵隊長が質問します。 「いった通りの意味です。1000年に一度、夢と現実が入れ替わってきました。」 「それじゃあ、私たちが生きていた現実世界は」 「もちろんもとは誰かの夢に過ぎないせかいでした」

「でも、私はもとの世界へ戻ります」夢見術師は言いました 「では私はここに残ります」と隊長はいいました。 現実であった世界は、夢の中に生きる人々に夢見られるようになりました。 こうして現実は抜け殻となり、夢であった世界が新しい現実となったのでした。


羽生

1262 Words

2021-06-06 15:15 +0900

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