光回線殺人事件
探偵業は気楽だ。人探しをしたり、浮気調査の依頼をもらって写真をとる。そのあとちょっとばかしのギャラをもらえばいい。 荒川の考える理想の探偵業は、雑居ビルの2階に事務所を構えて、週4くらいで営業する。事務所には、一人事務員の女の子がいる。彼女にコーヒーを入れてもらって、「こんなに暇だと事務所がつぶれちゃいますよ」文句を言われたりする、というのが理想。
その理想を半分かなえた荒川は、探偵事務所でお茶を飲んでいた。 しかし困ったことに、事務所はつぶれそう。家賃が払えない。3ヶ月分の家賃を滞納している。荒川は探偵だが、ここ最近めっきり仕事がない。このままでは探偵業も廃業である 「ひまだなあ」 「何言ってるんですか。私の給料はどうなるんですか。」 バイトの事務の佐々木さんが怒っている。
「そうはいっても、なかなか事件は起きないものだよ。」 そうだ、なんか殺人事件が起きないかな。
電話がかかってきた。 「もしもし、荒川探偵事務所です。ご用件は何でしょうか!」 「あ、荒川事件か。」 電話を駆けてきたのは、荒川の警察時代同期だった鮫島である。 「なんだ、鮫島。なんか用でもあるのかい」
「それはないだろう。事件だ。お前の出番だぞ。」 優しいことに荒川に仕事を回してくれたのだ。荒川も探偵。事件を解決した、しなかったりして警察から重宝されている。 鮫島の事件の捜査を手伝っても給料が出るわけではない。しかし荒川は大学生並みに時間を持て余している。今回は手伝ってやるかと事務所を出掛けた。
事件が起きたのはシェアハウスの一室だった。このシェアハウスに住んでいた大学生が死体で見つかった。遺体が見つかったのは昨日の朝。後ろから首を絞められた後があったという。
鮫島刑事の依頼はこの家の同居人たちが怪しいと思っているらしい。いろいろな人間が住んでいるシェアハウスだが、住人にはひとつだけ共通点がある。このシェアハウスの特徴は、Nuro光がデフォルトで契約されていること。住んでいる全員が安めの家賃と、高速回線をもとめてこのシェアハウスを借りていた。
「俺も昔は『クロスファイア』とかやってたなあ。」 荒川は大学時代を思い出す。 「鉄砲を撃つゲームだろそれ。」 鮫島はつれない態度である。おまわりさんは腰にピストルを付けているのにな。
荒川は黄色いテープをくぐって被害者の部屋の捜査を開始した。調べろって言っても、警察がみんな調べたんだろう。現場はほとんどものが動かされていないが、何をすればいいんだ。しかしすぐに事件は解決した。 被害者のパソコンを物色していると、面白いファイルを荒川は見つけた。これは『APEX Legends』のチートファイルじゃないか。
しかも更新日時は、事件があった日時とぴったり重なる。 「……なるほど」荒川は、溜息をつく
荒川も若いころオンラインゲームにハマっていた。 もうサルみたいに一日中ひたすら画面の前に釘付けだった。
大方、チートを使ってるところを同居人に見られたのだろう。たまたま部屋に入ってきた同居人が大学生がゲームでチートを使用している瞬間を見つけてしまったのだ。
その大学生には、このシェアハウスを選んだのが運の尽きとしかいいいようがない。同じゲーマーがいる建物内でゲームのチートを使用してしまったわけだ。どんなによくても絶縁、悪ければ暴力沙汰だ。しかし、チートを利用したとして刑事罰には問えない。被害者は私刑にあったのだ。ゲームでチートを使ったのなら、殺されても仕方がない。 荒川はそっとパソコンの電源を落とした。
「荒川何か分かったか?」 「いやー、何もわかんない。」
鮫島には適当にいって事務所へ帰った。 どうせ、調べても誰が犯人か分からないだろう。大学生を殺したのはシェアハウスの同居人だろうが、どうでも荒川にはどうでも良かったのだ。荒川は満足していた。今日は事件は解決しなかったが、憎いチーターが一人減ったのである。